シンガポールの経済発展の著しさは、数年前大きな話題になりました。しかし、現在その勢いは落ち着き、安定期を迎えています。そして現在でもその勢いを体感すべく就業先として人気のシンガポール。実際、日本同様に資源の少ないシンガポールの、戦略的な経済発展からは私たちが学べることは多くあります。そこで今回、シンガポールの経済発展の理由を紐解き、今後のシンガポールの成長機会について見ていきます。
シンガポールの経済発展の背景
シンガポールは東京23区程度の小さな国土に550万人が住む国です。1965年にマレーシアから分離し、当初は資源も富もない国でした。そこで初代首相リー・クアンユー氏は、一党独裁の強力なリーダーシップを発揮し、今に続く経済発展の基盤を築きました。この政策の柱になったのが、以下の3点です。
1. 外資誘致
シンガポールは独立当初、外資企業を排除することで国内企業の育成を図りました。しかし、国内マーケットの小ささゆえに経営が行き詰まったことから方針を一転、外資企業の誘致に乗り出しました。シンガポール西部の7つの島を埋め立て工業地帯を整備し、外資企業への優遇処置をとりました。その結果、産業の急速な工業化が進み、シンガポールの最初の経済成長が成し遂げられました。
その後も貿易拠点としての立地の良さと、シンガポールへ投資する企業や参入企業への税制面の優遇により、金融やITなどの外資企業が大量に流れ込みました。さらに、シンガポールに一定額以上投資する富裕層には永住権を与えるなど、富裕層の取り込みにも積極的に動いたのです。
その結果経済の流動性は増し、1980年から2010年まで、平均GDP成長率は7%以上と、安定した成長を遂げました。
2. エリート教育
シンガポールは少ない人材を活用するため、徹底した実力主義で知られています。シンガポールにはPSLEという全国統一テストを小学校6年生(11または12歳)で’受けます。これは彼(女)らの人生を大きく左右する可能性のある重要な試験です。この結果によって、中学校やその後の進路まで大まかに決まってしまいます。
その後、進学先の学力レベルに応じてGCEという学力調査を卒業時に受け、全てに合格した生徒のみが国立大学に進学することを許されます。その条件に満たなかった生徒は海外の大学に進学することも珍しくありません。そしてトップの成績で大学に進学した学生には、学費・海外留学無料+生活支援金が助成されるという優遇処置があり、徹底した実力主義をシステム化したプロセスといえます。
3. GLC(政府関連企業)の存在
GLCとは’Government linked company’の略で、日本でいう国策会社のようなものです。テマセクホールディングスという政府の株式保有率100%の持株会社が管理し、政府の方針に沿って企業戦略を策定していきます。GLCの幹部は先ほど紹介したエリート教育でトップレベルの成績を残した優秀層が就任します。しかし、就任後も厳しい実力主義が敷かれており、役職獲得への競争は厳しい上、経営不振の場合は事業売却、停止の可能性もあります。
近年のシンガポール経済
2010年をピークにシンガポールの経済は安定期を迎えたと言われています。それには次の二つが大きな要因になっていると言われています。
1. 中国の成長鈍化による貿易高の減少
シンガポールは政府主導で工業立国に乗り出し、人口500万人の小さい国土にもかかわらず、2013年まで年間40兆円以上の輸出額(日本の半分程度)を誇っていました。しかし、中国市場が成熟していくにつれてその額は減少、現在では8年前と同等の水準に留まっています。
2. 外国人受け入れの制限
シンガポールは独立当初から外国との協働によって経済を作り上げてきました。しかし、移民に容に対応し、優秀な海外の人材を積極的に取り込んだ結果、国民の4割以上が移民といわれる世界的な多民族国家になりました。これにより、シンガポール国民の職は奪われ、地価、物価も高騰。貧富の差が広がり、貧しい生活を送らざるを得なくなったシンガポール人が増えてきています。
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その結果、この一方的な経済発展を最優先としてきた政府に反対の声が上がり始めているのです。それを受け、2013年から’Strong Singaporian core’と呼ばれる政策方針を打ち出しました。これにより、就労ビザの取得には一定水準の収入が必要になるなど、対応が進んでいます。
しかし、それは同時にシンガポールの強みである外資誘致政策に歯止めをかけることになるのです。このジレンマをどう解決するか、シンガポールは岐路に立っていると言えます。
最後に
2017年現在、リーマンショック以来順調に活気を取り戻しつつある世界経済を背景に、シンガポールの経済も堅調です。シンガポール政府は次の経済発展の一手として、AIへの巨額投資、起業家の支援、周辺途上国への輸出など、次なる経済成長の機会を探っています。先に述べた通り、解決すべき課題はありますが、これからもアジアの中心経済圏としての影響力を発揮していくでしょう。